小学生のころから憧れていたのは、外国航路の船員だった。波止場に泊まる豪華客船の船員の白い制服。12階建てのビルにも匹敵する巨大な汽船の中で働くスマートな青年たち。一度だけ連れて行ってもらった港で見たあの鮮烈さ。いくつになっても忘れられなかった。
しかし私が大人になったとき、外国航路は既に廃止されていた。港に係留されていたのは、在りし日のあの客船の、現役を引退した博物館としての姿だった。私は一度だけ入場券を買ったのだが、結局入り口まで行って引き返してしまった。私はわたしの思い出を陵辱することに耐えられなかったのだ。