ショパンの小説を読みたい。ショパンの伝記を読みたいわけではない。私はショパンの音楽を聞きたいのであってショパンの生涯を知りたいのではない。だったらショパンのピアノを聞け、とあなたはいうだろう。全く持ってその通り。コンサートホールに行くか、それがかなわなければCDを買えばいい。まして私は無機質なデジタルの音でない古いレコードプレーヤーも、さらに真実の音を出すグラモフォンの蓄音機さえ持っている。小林秀雄のように、朝から晩までその音に沈潜し続けることだってできるのだ。しかし、それでは足りないのだ。ビートルズのマニアが呆れるほど飽きもせず彼らの楽曲について語り続けるように、私はショパンの声が聞きたいのだ。ショパンが自分の楽曲一つ一つについて倦むことなく語り続けるのを聞きたいのだ。誰もそうした小説を書かないのならば、仕方がない、自分で書くしかない。書きたいことは山ほどある。まずはプレリュード、作品28。