« 20100205-2 | メイン | 20100207-1 »

20100206-1

激しい風の中で男はただひたすらに歩きつづけていた。心の中は怒りに燃えていた。持ち上げるだけ持ち上げ、利用するだけ利用して、都合が悪くなると潮が引くように周りからいなくなり、手の平を返したように冷たいあしらいをするようになった者たちに。

裏切られた、ということに気がつかなかった自分も悪いのだ、と思う。ただ純粋に、彼らの言葉を信じてしまった。心の底から話せば理解しあえると、自分は思い込んでいた。誰もがそう思っているわけではないのだということに気がつかなかったのだ。

「ラン!」不意に男は声を上げた。あの記憶。あの暖炉のある家の記憶。その家で男はランに、その家の女主人であり二人の子どもを持つ寡婦であり、てきぱきと家事をこなし召使たちにきびきびと指示を下すランに、心づくしの饗応を受けた。家庭の暖かみを知らない男は、そこに大きな安らぎを覚えていた。いつしか男とランは深い中になった。しかし、ある日突然、ランとその一家は忽然と姿を消したのだ。ラン!お前も私を裏切ったのか。そうでなければ何故。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://honwoyomou.sakura.ne.jp/mt/mt-tb.cgi/1994

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2010年02月06日 15:14に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「20100205-2」です。

次の投稿は「20100207-1」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。