幻影を追って走りつづけた。夜中に見る夢。真昼に見る夢。私の頭の中の、半分を幻影が占めている。実際に目に見えるもの以外にも、見えるものはこんなにたくさんあるじゃないか。実際に聞こえるもののほかにも、聞こえる音はこんなにたくさんあるじゃないか。新しいもの、この世に存在しないものをみるというのはそういうことだ。そういうものがこの世に現わすには、そういうものが見えなければならない。頭の半分の、現実には存在しないものを形にしたい、そう思って私はいつも絵を書いたり、音楽を書いたりしつづけるのだが、頭の中に実際にあるものとは似ても似つかないものしか生まれないのは残念なことだ。イデアの世界が神々しい神の神殿なら、私の作品はみじめな掘っ立て小屋のようなものだ。あんなに鮮やかに全ては輝いているのに、どんなにそれを作り出そうとしてもみじめな贋物が生み出されるに過ぎない。
私は手を止めて考える。私に何が出来るのかと。熱に浮かされたようにビジョンを語りつづけ、人に変に思われても自分の頭の中にあるものを現実の生命を与えたい。私はマッドサイエンティストのように命ある人間を作ろうとするが、できるのは奇妙なできそこないばかりだ。
加藤唐九郎が失敗作を叩き割るように、頭の中で私は出来たもの全てを叩き割る。私は叩き割った作品の山の上で、ボタ山の月を見る。月に吠える。たった一つ本物を作り出せたら。たった一つ、頭の中にある幻影を現実のものにできたら。