「私は魔法が使えるのよ」、と彼女が言う。
「何の魔法?」
「バレンタインデイ・マジックよ。」
「何だそれ。」
「チョコレートに愛を込めて贈るの。」
「おいおい本気か?」
「失礼しちゃうわね。せっかく作ってあげたのに。」
「ありがとう。」
「気のない返事ね。」
「なんていえばいいの?」
「そのくらい考えなさいよ。私がせっかく早起きして作ったんだから。」
「へー、早起き。ミサが早起きなんてそりゃすごい。ありがたやありがたや。」
「ふざけないでよ。」
「どれどれどんなマジックが?」
「愛情がたっぷり入ってるのよ。」
「こりゃ苦い。」
「そんなことないわ。」
「ちょっと食べてみなよ」
「……あれ?」
「苦いだろ?」
「おかしいなあ…あ。砂糖入れるの忘れた。」
「なんだそれ。」
「だって、手作りチョコって普通、板チョコ買ってきて溶かして型に入れるだけなのよ。そんなの手作りじゃないでしょ。だからちゃんと材料から作ったんだけど…」
「砂糖を入れ忘れた。」
「うーん。失敗は成功の元ね。」
「しかしこの砂糖の入ってないチョコはどうすれば…」
「作り直すわね。回収しまーす。」
「バレンタインデイ・マジックはどこに行ったの?」
「うるさいわね。」
「……」