その人は、笑顔の中に恥じらいのある人だった。その少女のような素朴さが、彼の心を強く引いた。彼女と何度か会うことになるが、あるとき大きな神社にお参りした時の、彼女の表情にはっとさせられた。型どおり柏手を打ち、手を合わせて、「ご飯どこに行く?」と彼が笑顔で振り向いたとき、彼女は真剣な面持ちで目をつぶり、手を合わせて上体を傾けていた。その真剣さは、みる人をはっとさせるものがあった。この人は、神様を畏れている。神聖なすがすがしさを、体いっぱいに感じている。そう思うと、彼は自分も身の引き締まるような思いがした。またあるときは、約束の時間に10分も遅れてきた。いつも5分前には来るのにと、彼が不思議に思っていると、彼女は大慌てで走ってきて手を合わせた。「ごめんなさい」「いいけど。珍しいね、君が遅れるなんて。」「少し早めに来てたんだけど、おばあさんがとても大きな荷物を持っていて、とても重そうだったの。それで私、それを担いであげて、おばあさんの家まで届けてあげたの。そうしたらこんなに遅くなってしまって。」「いったいどこに?」彼女が言った住所を聞いて私は驚いてしまった。そんなところまで往復したら30分はかかるじゃないか。「いったい何時に来てたの?」彼女はいつものように恥ずかしそうな顔をして言った。「少し前よ、気にしないで。」ずっと後になってそのときのことを聞くと、実は彼女はいつも30分前には待ち合わせ場所にきていたのだが、女性があまり早めに行くのは物欲しげではしたないとおばあさんに諭され、いつも私が来てから今来たかのように現れていたのだとわかった。