白い衣裳を着て水辺にたたずむ貴族の娘。湖は澄み渡っていて、波一つない。山の森が湖面に鏡のように映っている。空も、湖の中にある。
娘は、泊めてあった小さな舟を湖に押し出し、それに乗った。櫨が一つついた小さな舟を、娘は器用に操って漕ぎ出していく。してみると、彼女は本当は貴族の娘ではないのかもしれない。櫨を操れる貴族の娘、そのようなものがこの世に存在するのだろうか。
娘は、さらに貴族らしくない振る舞いに及ぶ。十分に岸から離れた湖の中心へ来ると、そこはもう岸からは誰にも見えない。娘は着ていた衣裳を脱ぐと、白い衣裳よりもさらに白い肌を見せて、湖へと飛び込んだ。と、そこに白いイルカのような海獣が現れ、娘と戯れ始めた。娘とイルカはまるで旧知の仲のようにお互いを懐かしがり、愛撫しあい、戯れ、ともに泳いだ。やがて急にイルカは水上に飛び跳ねたかと思うと湖の奥深くに潜り、それっきり浮上しなかった。娘は舟に上がり、その金色と黒の混じった髪を結わえ、しばらく風の中に身を任せた。やがて雲の隙間から太陽が顔をのぞかせると、娘はすっかり乾いた体に白いドレスをまとい、また器用に櫨を操って岸へと戻って行った。誰も彼女の行動を見たものはいなかった。