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森行生『改訂 シンプルマーケティング』

改訂 シンプルマーケティング

ソフトバンククリエイティブ

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買ったのは森行生『改訂版 シンプルマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ、2006)。(4.10.)

昨日帰郷。出掛けはなんだかばたばたした。特急の車中では『シンプル・マーケティング』を読む。いろいろ参考になることが多いが、なんというかマーケティングというのは消費者心理というある種の暗くて広い闇の海を手探りで航海して行くようなものなのだなと思う。いろいろな理論はそれなりに説得力はあるが、だからといって演繹的な意味での科学ではない。人の心に関することは物質世界に関すること以上に仮説と経験則だけで成り立っているようなものだ。心理学とか認知科学とかが根本的に信用しきれないものであるのはそういうところから来ているのだけど、経済学というのも結局は行動心理学のようなもので、実態としての動きも巨大な精神世界や無意識的な欲望に支配されているわけだから経済学というのもある種の科学を装った占い的な部分がどうしても払拭は仕切れない。だいたい貨幣というもの自体が本当の意味では実体がないものなのだと思うし、そういうバーチャルにバーチャルな物を重ねたものでものごとが激動的に動いていくというのは面白いといえば面白いが怖いといえば怖い。

マルクス経済学が一斉を風靡し、魅力的に見え、今でも一定の信者を持つのは、そうした経済学の中でも最も現実であるとか物質であるとか手ざわりのある部分に固執したということが大きいのだと思う。現実の貧困であるとかを物理的な法則で説明できた方が、人間的な心理としては納得がいくだろう。バーチャルな仮想的な説明で現実の貧困を説明されてもなんだかやるせない。誰か悪者がいて搾取されてるから、と説明された方が自分が苦しんでる理由が納得できる、という人間の切なさがマルクス経済学や共産主義政党、あるいは左翼勢力を支持して来たのだろう。

しかしそれが破綻していることが明らかになると、世界はますます仮想的なものになり、養老猛の言い方でいえば「脳化」していく。しかしその脳の機能というものは、何かを思いついたときにどのようにシナプスが動いて電気信号を発生するかとか、完全に説明しきれるものではないし、結局は物理的なものよりバーチャルなもののほうに説明や理解が傾いていくのは仕方がないことのような気がする。世界の現実感のなさのようなものを、マーケティングの本を読みながら感じるというのもどうかと思うが、なんだかそんなことを思った。

しかしまあそうは言ってもへえと思うことは多く、実際にこれは使ってみようと思う概念や理論はたくさんあってマーケティングのことを勉強している人なら一度目を通しておくといいのではないかと思うような本だ。なかなか手に入りにくい本ではあるが、ぜひあるうちにどうぞ。

読んだ本はおもに『シンプルマーケティング』。とても面白くどんどん読む。ずいぶんたくさんメモを取った。三ツ矢サイダーが原料水を6回濾過して水を磨いているという話は初めて知ってへえと思った。花王が一時フロッピディスクのトップメーカーだったことは知っていた(どの時代からPCを使っていたかがわかる)が、それが界面活性技術(つまり石鹸・洗剤)の応用だとは知らなかった。

マーケティングの失敗例としてサントリーの「燃焼系アミノ式」が取り上げられていたのは意外の念に打たれた。「♪燃焼系、燃焼系、アミノしき〜♪」のセーラー服で前宙をくりかえすあのCM、今までで一番印象に残っているものの一つだ。しかしCMはヒットしたものの、アミノ酸飲料は定着しなかったのだという。へえ〜と思ってネットで調べてみると、ホームページはあった。しかし確かにメッセージはあまりはっきりしないな。運動する必要があるのかないのかがよくわからない。よく読めばわからないことはないのだけど。しかしこれだけのページがまだあるということはサントリーはまだ捲土重来を帰しているということなのだろうか。意外な逆転がありうるのか。

80年代の企業横断のイクシーズというブランドが取り上げられていたのは懐かしい感じがした。まだサイトもあるしここに乗っているデザインシャツなんか私は好きだなと思ったのだが、トップページを見たらこの3月で休止になっていた。なんだか残念だなあ。

こういうものって消費者の側から言うとほんとうたかたのように現れては消えていく感じがしているが、担当者はそれぞれさまざまな努力をしてシェアを勝ち取ったり敗れて撤退して行ったりしているんだなと改めて思う。まあでもそういう世界ってシビアではあるけれども面白いしやりがいもあるんだろうなあと思う。(4.13.)

  
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