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石原慎太郎『弟』
弟幻冬舎このアイテムの詳細を見る 出かける途中で『弟』を買う。書き方というか文体がほとんど同じなので読んでいてまるで続きの話を読んでいるような錯覚に陥った。しかしこの小説も面白そうだと思う。石原慎太郎の『弟』も、江藤淳の『妻と私』も、家族のことをテーマにした話は読んでいてやはり共感しやすいのだと思う。そして家族の絆というものをこういう小説で再確認することが、必要になっている時代なのだなと思う。(3.14.)
列車の中ではずっと『弟』を読む。読んでいて面白いと思ったのは、歴史の本など、たとえば出かける前に借りた『昭和史が面白い』などを読んでいるとまわりの席がうるさかったりするとすごくいらいらするのだが、『弟』は読んでいて周りが気になってもいらいらしない。どういう違いがあるのだろう。小説は読んでいて没入し、歴史は客観的に見ているからだろうか。列車の中で人が小説を読むのはそういうこともあるのだろうか。
石原裕次郎が独立プロを作って『黒部の太陽』を撮って以来、そういう企業の努力のようなものをとりつづけたというのは、『プロジェクトX』の原型だなと思った。日本人が、日本の企業人が一体どんなふうにして日本の経済を支えてきたか、というテーマはもっと取り上げられてもいいと思うが、そんな地味な仕事をはじめたのが石原裕次郎という最も派手なイメージのある俳優だったというのは非常に印象的だしすばらしいことだと思う。
裕次郎の病気の際、数多くの人が病院の前でてかざしをして裕次郎に気を送っていたという。人によっては拒絶反応を起こしそうなこのことについて、石原慎太郎は心からの感謝の念を記している。そういう霊的なものをも受け入れるいわば度量の広さというものが非常に印象的である。
また、自分が考えさせられたのは子供のころ自分がけんかをした際、隣にいてすくんでいる弟が手出しができなかったのを強く非難し、それを母に告げたら母が裕次郎に平手打ちを食わせたという話である。兄と弟、家族の強烈な絆というか、ともに戦うのが当然だという姿勢が自分には弱いなあと思った。人と人とのつながりを理屈でなくもっと原始的な絆としてとらえる部分が、今いろいろ考えてみるともちろん自分にもそういう部分はあるのだけど、考え方としてあまりはっきりしていないなあと思う。そこのところはもっと自分を何とかしていかなければいけないところだなあと思ってみる。
裕次郎が手術後水を飲むことができず、ポカリスエットをのみたいというのを兄がインタビューで何気なく答えたら、売上が倍増したという話は素直にすごいと思う。こういうことを衒いなくかけるのがまた石原慎太郎の面白さ、強さだとも思ったが。
『弟』は全般に『わが人生の時の時』と重なる挿話が多いけれども、『弟』の方がより深刻性が高い。しかし、エピソードとしては『わが人生』の方が客観的で短編としての独立性が高い。流れるように読めるのは『弟』の方だけど。(3.17.)