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北村暁夫『ナポリのマラドーナ』

ナポリのマラドーナ―イタリアにおける「南」とは何か

山川出版社

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北村暁夫『ナポリのマラドーナ』(山川出版社、2005)。イタリアワールドカップで、ナポリの民衆が、ナポリのチームの英雄であるマラドーナのいるアルゼンチンチームとイタリアチームのどちらを応援したか、という話をめぐってイタリアにおける南北問題を考えるというスタイル。非常に根が深いが、それだけに興味深いテーマを扱っている。(10.10.)

電車の中で『ナポリのマラドーナ』を読む。南イタリアを巡るさまざまな問題、興味深いことが多い。南イタリアは「遅れている」とか「野蛮だ」と言う言説が多いのだが、それを経済構造、犯罪組織、クライアンテリズムという三つのテーマから考えようということで、面白い。現代イタリアというのは確かに歴史的存在として面白い面が多いとは思っていたが、知らないことが多いなと改めて実感させられる。そのことを勉強し始める初期の「へえー!」ということが多い段階はどんな事象でも俄然興味がわくのだが、イタリアと言うのはその中でも特に魅力的であることは事実だ。

経済格差は統一後の統一イタリア国家の政策による面が多いということ。「マフィア」の秘密結社的な性格などがその指摘の内容だが、基本的になるほどと思う。南部では北部を「外国」と見なすような意識があるようだが、それは台湾が中国を「外国」と見なす意識と共通するものがあるように感じた。中国には今のところイタリアの「北部主義者」のような存在はないか、あっても影響力は微小のようだが。

イタリア経済について目から鱗が落ちたのは、ヴェネト、マルケ、エミリヤ、ロマーニャなどの「第3のイタリア」といわれる地域(北部・南部に対して「第3」なのだろうか)が、「イタリア経済の最先端の部分としての」「家族を中心とした小規模経営に基づき、家具や衣料などそのデザイン性により高い付加価値を持った部門」で発展しつつある、という話である。イタリアが職人の伝統をもつ国だとか、あるいはそういったものが注目を浴びていると言うことはもちろん知ってはいたが、いわばポスト近代の産業としてそういうものが発展の原動力になりえるということは、注目すべきことだと思った。日本とは経済規模が違うからそのまま当てはめることは出来ないが、もちろん日本にも職人的な伝統があるわけで、「産業構造の一角」としてそうしたものをもっとアピールすることによって重厚長大産業や大企業中心型の産業構造から抜け出すことはありえるのではないかと思った。簡単にいえば、半ば手工業的な意味で「いいものを作る」ことによる産業発展の可能性、ということである。日本人の器用さや美的センスを産業発展に生かして行くための戦略として、そういうものを考えてもいいのではないかと思った。(10.11.)

『ナポリのマラドーナ』読了。アルゼンチンにおけるネイティブ(と言ってもスペイン系だが)の代表たるガウチョとイタリア移民のグリンゴの対立と協調、と言った問題が19世紀以降すでに始まっている、という話も面白いと思った。それが現代では逆にイタリアに移民してきているわけだ。ブエノスアイレスのボカという地区ももともとイタリア移民の集住地域だったと言うこともはじめて知る。マラドーナもボカ・ジュニオールに在籍していたし、そういうことでも関係が深かったのだなと思う。(10.12.)

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